研究業界に未来はあるのか?+事業仕分けの問題点を整理

イエメンで誘拐された方が無事に解放されたそうで、良かったなぁと、そう思っている今日この頃、皆様如何御過ごしでしょうか?今日はしがない爺です。


日本は中東では比較的人気だそうで、その理由としては、
1.黄色人種だという観点
2.非キリスト教国だという観点
3.第2次大戦後、国内インフラが破壊された状況から経済発展したという点から、一種の非白人国家のロールモデルとなっている観点
があります。
また、なかなか報道されませんが、イスラエルと中東各国の関係改善にも積極的に働きかけていると言う事もあり、
政治的な評価は中々に高いわけです。
経済的支援などが厚いという観点もあるわけですがね。
それでも、口は出しても金は出さない、という国が多い中で、実際にちゃんと経済的負担をする国は貴重だという訳です。
宗教的な意味では、直接関係あるかは不明ですが、
世界宗教者平和会議の主催で「アフガニスタンにおける国民和解と和平の道筋を探る国際会議」というのがあった。
http://www.47news.jp/CN/200911/CN2009112301000090.html
一説には、ここでイスラム系宗教指導者に何らかの働きかけがあったのではないか、とも言われているそうだ。


そういった中で、誘拐された技術者の方が無事に解放されたのは、
地域内の部族での評価が高かったことが一因にあるのかもしれません。


おなじイエメンでは、日本人誘拐よりも前に、ドイツ人英国人医師らの誘拐も起こっておりますが、
これは9名中3名が殺害され、6名は行方不明のままです。
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/136852


こういった面から見ても、無事に解放された事は喜ばしい事で、
またその裏には、政府関係者の交渉といった努力もあったのかもしれません。


さて本題。

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文部科学省行政刷新会議事業仕分け対象事業についてご意見をお寄せください(12月15日まで)


http://www.mext.go.jp/a_menu/kaikei/sassin/1286925.htm


あまりにも事業仕分けが酷いので、文科省パブリックコメントで皆さんの応援を求めています。
お暇な方は一読してみてください。

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今まで、事業仕分けについて、特に科学技術関係に注目しておりましたが、
それに関連して大きな動きがありました。


11月25日に、
ノーベル賞フィールズ賞受賞者による事業仕分けに対する緊急声明と科学技術予算をめぐる緊急討論会」
が緊急開催されました。
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/event/debate.html
フィールズ賞とは、数学界のノーベル賞とも呼ばれており、受賞者の条件も厳しいのでノーベル賞以上とも呼ばれている。


発表者は以下の通り。
江崎 玲於奈(1973年 ノーベル物理学賞受賞者)
利根川 進(1987年 ノーベル生理学・医学賞受賞者)
森 重文(1990年 フィールズ賞受賞者)
野依 良治(2001年 ノーベル化学賞受賞者)
小林 誠(2008年 ノーベル物理学賞受賞者)


会場は、日本の学府の頂点、東京大学です。
つまり、
東京大学で、こういった緊急声明を出すほどに、研究者は危機感を募らせているというわけです。
これはネットでも生中継され(私の把握している限り、18000人が同時視聴)、2時間ほど行われました。


18:30-18:50 経緯説明/声明発表/ノーベル賞受賞者フィールズ賞受賞者のコメント
18:50-19:10 記者質問
19:10-19:30 教員・学生からの質問
19:30-20:30 緊急討論会


そして、下記のような声明文を発表し、会場にて賛同者の署名を集めました。
http://www.s.u-tokyo.ac.jp/info.html?id=2009

11/25 声明文(ノーベル賞フィールズ賞受賞者による事業仕分けに対する緊急声明と科学技術予算をめぐる緊急討論会)


学術および科学技術に関する「事業仕分け」によって現在進行中の科学技術政策
決定手順について深く憂慮するノーベル賞受賞者フィールズ賞受賞者をはじめとする
われわれ研究者が急きょ集い、討論した結果、以下のような声明を発表することに決した。


声 明


 資源のない我が国が未来を持つためには、「科学技術創造立国」と「知的存在感ある国」
こそが目指すべき目標でなければならない。この目標を実現するために、苦しい
財政事情の中でも、学術と科学技術に対して、科学研究費補助金を始め、それなりの
配慮がなされてきた。このことを私たちは、研究者に対する国民の信頼と負託として
受け止め、それに応えるべく日夜研究に打ち込んでいる。
学術と科学技術は、知的創造活動であり、その創造の源泉は人にある。優秀な人材を
絶え間なく研究の世界に吸引し、育てながら、着実に「知」を蓄積し続けることが、
「科学技術創造立国」にとって不可欠なのである。この積み上げの継続が一旦中断されると、
人材が枯渇し、次なる発展を担うべき者がいないという《取り返しのつかない》事態に陥る。
現在進行中の科学技術および学術に関する「事業仕分け」と称される作業は、
対象諸事業の評価において大いに問題があるばかりではなく、若者を我が国の学術・科学技術の
世界から遠ざけ、あるいは海外流出を惹き起こすという深刻な結果をもたらすものであり、
「科学技術創造立国」とは逆の方向を向いたものである。


 学術と科学技術に対する予算の編成にあたっては、このような「事業仕分け」の結論を
そのまま反映させるのではなく、学術と科学技術の専門家の意見を取り入れ、
将来に禍根を残すことのないよう、大学や研究機関運営の基盤的経費や研究開発費等に
関する一層の配慮を強く望むものである。


                平成21年11月25日


                  署名人一同(名簿は別紙)

なお、ネットで署名も受け付けているので、これを見た賛同者の方は下記URLより署名をお願いいたします。
【署名簿: ノーベル賞フィールズ賞受賞者による事業仕分けに対する緊急声明】
http://spreadsheets.google.com/viewform?formkey=dEhoSnhEQUZtMnNpd0tJQkFXUm9CZFE6MA


なお、この討論会の序盤の映像がありましたので貼っておきます。
事業仕分けに対するノーベル賞学者・フィールズ賞学者による緊急声明】


私が強く主張したいのは、
日本の産業界を支えている多くの技術は科学に裏打ちされたものであり、
無資源国ともいえる日本が今後も世界において一定の地位を維持し続けるには、
科学と技術の進展が必要不可欠なわけであります。
そして、技術の進展には科学が不可欠であり、どちらか一方が欠けても日本の将来は明るくなりません。
どんなに小さな、日常的な品物にも技術が宿っており、その背景には科学が存在するわけです。


研究関係に少なからず関連している(していた?)人間としては、
自分たちが知らない世界(理解できない世界)=無駄、
として不必要と判断することが非常に許せない。
しかも、たった1時間で。
他業種の内容を1時間ほど聞いただけで、その業界のあり方に対して意見を好き勝手に言えるのだろうか?
しかもその中に、若手研究者向けの予算や、先端研究向けの予算などが含まれており、
民主党の人気取りだけのために、日本の未来を捨てろと宣言しているに等しいこの状況は、
断じて容認できるものではないのである。

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さて、私の頭の整理のためにも、ここからは事業仕分けの問題点を整理してみよう。


私が考える事業仕分けの問題点は、大まかに以下のものである。
1.法的・権限的問題点
2.「仕分け人」という存在の問題点
3.仕分け対象となっている事業の問題点
4.結論についての問題点


さらにそれぞれに細かく見てみよう。

1.法的・権限的問題点

前回のエントリーでも書いたが、「行政刷新会議」というスタイルは内閣府設置法第三十七条が法的根拠のようです。
いわゆる「審議会」という形式のもので、民間人を入れて意見を答申してもらう、というスタイルであります。
繰り返しますが「意見を答申」するのが、事業仕分けの本来の機能であり、権限の限界であるわけです。
制限されている理由は、国民の付託を受けていない、つまり選挙で選ばれていない、という点がメインであり、
また国権の最高機関は国会であるためであります。


しかし鳩山政権では「意見の答申」でしかないものを、金科玉条の如く扱うかのような態度を見せていたことがあります。
もっともこの態度は、民意が事業仕分けを批判し始めた事もあり変わりつつあるようです。風見鶏ですなww
それでも、現在民意の批判が集まっている事業以外にも、多くの事業が廃止という方向であることも間違いありません。
はたしてこれらの事業は本当に廃止の方向で良いのでしょうか?
社会人に比べ時間が自由な私でさえ、毎日18時間づつ増えていく事業仕分けの映像を全てチェックする事はできません。
誰も着目していない重要な事業が廃止の方向に向かっている可能性もあります。


私は無駄を少なくする事は否定しませんが、
それはあくまでも、国民の付託を受け、ある意味で様々な(国民の)利権を代表している国会議員によってなされた場合であり、
国会議員によって議論され決定された事は、当然ながら投票権を有している私達一人ひとりの責任でもあるわけです。


しかし、事業仕分け人は、国民が選択した人達ではありません。
これが非常に大きな問題だと、私は思います。


さて、仕分け人の話が出ましたので次に進みましょう。

2.「仕分け人」という存在の問題点

この事業仕分けの大きな矛盾は、仕分けには各分野の専門家としての知識が求められる一方で、
予算を直接審査するという形式上、当該利害関係者は仕分け人にはなれない、という問題であります。


各種団体や大学の教授なども、本来的に補助金や事業などの関係者である可能性もあり、
何をもって利害関係者とするのか?あるいは利害関係者としないのか?
その定義すら発表されていないのです。


この定義というか選考基準は非常に重要で、
事業仕分け作業を見ていると多くの仕分け人が「庶民感覚」とか「国民の目線からは」などと言いますが、
どうして君たちがそれを代弁できるか理解できない、というのが正直な感情です。


また、仕分けメンバーに外国人が含まれている問題点も、亀井大臣が指摘しておられました。


とにかく仕分け人に関しては、選考基準と選考を行った責任者が明らかになっていない事が大きな問題だと言わざるをえない訳です。


専門性の欠如についてさらに言えば、
1時間の審議で、素人がどの程度その事業を正確に理解しているのか、という問題がある。
当然のことながら、その事業を理解しないままに答えを出すというは大いに不遜である。


また大きな問題として、参加している議員が与党だけというのも大いに問題がある。
与党議員だけでは、やはり国民の付託を受けているとは言えない。
国会での審議は、与党と野党に審議時間が与えられていることで、
国民の付託を受けた議員による討論が行われ、結果として間接民主制が成立している。
間接民主制の長所として、権限集中を制限し独裁政権の誕生を防止し、衆愚政治をも防止している。


しかるに事業仕分けは、権力の集中と衆愚政治への危険性を大いに孕んでいるとしか言いようが無いのである。

3.仕分け対象となっている事業の問題点

次に仕分け対象となっている事業についての問題点を指摘する。


ずばり、仕分け対象が不明確である、というのが最大の問題である。


具体的に言えば仕分け対象となっている事業は、事前に財務省が選別したものである。
明確にその弊害が出ているのが、財務省の関連事業の多くが事業仕分け対象から外されている点である。
さらに大きな問題として、なぜ仕分け対象になったのかも説明が不明確で、選別基準も公表されていない。


政府の事業に光を当てると言いつつ、そのプロセスが非常に不明確で大きな疑問が残ることを指摘したい。

4.結論についての問題点

さて最後に、結論についての問題点を指摘したい。


最大の問題は、削減ありきの前提で討論を行うため、どのような答弁をしても結果的に削減方向に持っていかれるという点である。
これは非常に大きな問題で、仕分け人は削減方向で回答した理由を詳細に説明する責任を負っていないようである。


これまでの事業仕分けの結論のを見てみると、
その多くの削減理由が「必要性が十分に説明されていない」などの主観的観測であり、
担当官僚の答弁には数字やデータを求める一方で、明確な削減理由を提示していない。


削減が妥当だと判断したのであれば、その論拠なり改善方法や改善目標を提示すべきであろう。
逆に言えば、削減ありきでの討論のため、業務仕分け作業の判定基準がまったく見えないのである。


さらに問題点はあり、以前のエントリーでも取り上げたが、
多くの仕分け人の結論が削減だったにもかかわらず、政治家の仕分け人によって結論が覆った例すらあり、
判定基準が不明確な上に、政治家の意向でその判定すらどうにでもなってしまうという、非常に不明瞭な状況なのである。


また別な角度から指摘すると、
本来の事業の有用性とは関係ない部分で削減されている場合が多いという問題もある。
具体的には、天下り職員が多い関連団体が参加している事業などが多く削減されている。


天下りの問題は大きな問題であるが、しかし一方で過去においては違法ではなかった現実もある。
しかしこれにおいての最大の問題点は、
天下りが在職していることとと、その事業が必要か不必要かは、まったく関係性が無いということである。


天下りを理由として、事業を削減するのが本当に正しいのだろうか?
正すべきは天下りであって、そこで事業の正当性は判断されていないと思うのは私だけだろうか?
本当に討論して評価するのであれば、そういった明確な言及が必要なのではないだろうか?


という感じでまとめてみました。
文句がある人はコメントでも書いてください。
以上。